★ クリスマスライヴ(未公表) 2007年12月23日(日) 出演:あがた森魚、田口昌由 at 茨城県 児童養護施設 開演PM6:00~ 小さな駅、川沿いの工場。枯れ色の平野に現れては消える瓦の家々……あがた森魚とマネージャーのKさん、田口と私はローカル線を乗り継ぎ、狐町からの旅を続けていた。ここから先は完全なプライヴェート、夕陽が川向こうに落ちる頃、とある児童養護施設施設に到着する。保護者のいない児童、虐待を受けた児童…様々な家庭環境上の問題を抱える子供たちが、この施設で共に暮らしている。そして、今日はクリスマス会の夜だ。 あがたさんのマーティンと田口のギブソンが車から降ろされる。迎えてくれるMさんと挨拶をかわす。Mさんは、施設の指導員だ。親代わりに子供たちに接し続けてもう30年。昼夜なく子供たちとの激動の日々に向き合うなか、あがた森魚の歌を心の拠り所としていた。縁が繋がり、昨年あがた森魚がひとり歌った秘密のライヴに、今年田口はどうしても同行したかった。 二人が控え室で軽い打ち合わせをする頃、ホールに子供達が集うのをガラス越しに眺めた。窓辺に飾られた雪模様の切り紙細工。クリスマスツリー。Mさんがこんなことをいう。「子供達が突然抱きついても、驚かないでくださいね」…その意味は後になって解る。 ホールに入ると、「最初に僕たちからプレゼントがあります」前に立ったMさんが照れくさ気にギターを手にとった。子供たちを促し、ピアニカとタンバリンとの「赤色エレジー」が始まった。拙い指先で懸命に辿る鍵盤と幼い声。見つめるあがたさん、微動だもしない田口。綺麗な雫が、ゆっくりと心に沁み入っていく。 紹介を受け、子供たちの前に立つ田口とあがたさん。一本のマイクの他、音響は何もない。田口のギターは完全なアンプラグドだ。選んだ曲は「くるりくるりと」。2本のギターの生音が掛け合い、最初のつむじ風が吹き抜けた。メロディーに乗って、話しかけるように誘いかけるように歌うあがたさん。「みんなおいでよ。踊っても歌ってもいいんだよ」 幼い子供たちが立ち上がる。あがたさんと田口の足元に歩み寄り、踊り始める。長身をかがめ、ギターで話しかける田口。飛び跳ねる子供たちに笑顔が弾けた。抱きついてくる少女がいた。溢れる喜び。「愛しさ」と「親しみ」を少女は全身で表現したのだ。 輝け星よ、月よりも……暖かな部屋からこぼれ、凍れる夜空を彩る音符のイルミネーション。それにしても、あがたさんと田口はなんと優しい顔をするのだろう。 小さなライヴが終わり、どっと子供達があがたさんと田口に押し寄せた。ねえ、握手をして!と小学生。ギターを教えてください…と中学生たち。凄いね、音楽って! 音楽って楽しいよ!言葉で表せない共鳴。迷わず子供たちの手をとる田口。 ギターを教える束の間の時間、田口は鮮明に思い出していた。そうだ、音楽が今まで自分をどれほど支えてきたか。音楽が自分にどんな可能性をひらいてくれたか。君に曲作りを教えたい。音を合わせる楽しさを教えたい。何度でも繰り返し、君に会いたい。持っているすべてを教えてあげたい。君たちと宝物を共有したい!…… 聖夜に冬の星座が瞬く。クリスマスプレゼントをそれぞれの胸に仕舞いこむ。子供たちは暖かい夢を観て、新しい日常へ戻っていく。田口は”今年いちばんのライヴ”を手に、東京へ戻っていく。旅は終わった訳ではない。胸に溢れて止まない楽しい「企み」。「また必ず来るよ。それまで俺も頑張るからね!」…… 物語は、最初のページをめくったばかりだ。 #
by Mahiru1226
| 2008-03-24 03:26
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Writer's Profile
まふゆのまひる
東京出身。稲垣足穂と同日 この世に生を受けた旅人。 2007初夏、あるライヴシー ンをきっかけに田口と出会い、意気投合。その熱い音 楽性を心から応援。いっぽ うで漫画のような生態を観 察中。文章を生業としてい るが、このレポに限っては、ジンを飲みつつ気ままに綴り、その文責は負わない。 ※ knock-down-drag-out = 「倒れるまで戦う, 徹底的な」という意味のスラング。文中敬称略。 Copy right reserved. ※レポ及び写真の著作権は すべてmahiruが所有。 無断転載を禁ず。 Copyright(c) 2007. mahiru カテゴリ
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