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嵐の先へ突っ走れ! Taruphology Tour TOKYO (前編)


★ 「Taruphology Tour」東京公演
2007年10月27日(土)
開場 18:30 開演 19:00〜
 出演:あがた森魚(Vo., A.G.)武川雅寛(Vn.)
   高橋佳作(Key., Acco.)五十川清(Per.)
   田口昌由(B.)    
    チンチョルズ:松延耕資(Sax, Cl.)、
    木村仁哉(Tuba)、舩坂綾乃(Per.)
ゲスト:久保田麻琴、鈴木慶一、光永巌(Vo., E.G.)
at 東京キネマ倶楽部(鴬谷)


折しも台風接近中だった。突風と大雨で最寄り駅につく頃には全身びしょ濡れ、首都圏の交通は大幅に乱れている。しかし「Taruphology Tour」が行われる「東京キネマ倶楽部」に向うのに、躊躇する理由はカケラもない。胸に交差する緊張とあふれる期待。烈しい雨がたたく車窓に、都会のビル群が移ろっていく。
    
今夜は田口にとって"特別な夜"になる。鈴木慶一や武川雅寛が在籍するムーンライダーズは、高校時代からの憧れだった。カリスマプロデューサーの久保田麻琴の名は、聞くだけでビビった。そして活動35周年を迎えるあがた森魚。そんな大御所と同じステージに立つ自分。夏にはフライヤーに載った自分の名を他人事のように「凄い」と眺めた。しかし「幸せ過ぎる幸せ」を現実的に叶えるには、想像以上に高い壁を乗り越えねばならなかった。

                 * *

アルバム「タルホロジー」発売前の夏より、田口は音源から担当のベース音を取り始める。いっぽう、ミーティングで久保田麻琴と同席する度、緊張感が高まっていた。田口は遠慮がちだった。「久保田さんは話してみると、フレンドリーでとてもウェルカムな人。何でも気兼ねなく提案してよ、なんて言うんだ。でも独学の俺が何を言える? だって”久保田麻琴”だぜ!? 」…

10月に入り、久保田麻琴は田口にこんな事を言った。
「今度のライヴは『タルホロジー』のアレンジ通りにやりたいんだ。『百合コレクション』『サブマリン』『骨』といった曲も同様。今までやってきたライヴ演奏は忘れて、最初から音を取り直してね」…言葉は柔らかくても、久保田麻琴の音に対する厳しさとこだわりは半端ではない。”徹底的に音のクオリティを追及するライヴ”になる! 田口は大ステージの予感に武者震いした。

2007年10月号の「ミュージックマガジン」には「タルホロジー」に関する、こんな記事が掲載されている。

「(略)これは二人が(久保田とあがた)が、ノルデスチ(ブラジル北東部)の音楽に取り組んだアルバムではない。アメリカ南部の田舎の音楽、ニューオーリンズR&B、メキシコの音楽、インドネシア/マレーシア音楽、東欧のロマ音楽、地中海各地の音楽、ハワイアン、エレクトロニックなダンスミュージックなど、久保田麻琴は広範な知識を動員し、この上なく重層的な演奏を作り上げている」

「タルホロジー」は、多彩な楽器が重なり合うワールドワイドな久保田ワールド。田口は音源を何度も繰り返し聴き直すものの、複雑で曖昧な音の表現に迷い、その課題に頭を抱えた。

間もなくリハーサルが始まる。総勢10名以上の参加者。コード譜でなくては…という人もいる。五線譜での譜面も必要だった。一つ一つの楽曲の構成を考え、久保田麻琴と相談し修正、またバランスを取り、組み立てる日々。夜半に田口からの電話が鳴る。プレッシャーとナーバスを抱えた声。「ごめん、歌詞を書き起こしてくれないかな…?」 すぐに歌詞カードを入力、音源と照らし合わせ、何度でも譜面創りを手伝う。

田口はもう躊躇しなかった。提案し、自ら動いた。あがた森魚へも「35年築いたスタイルとは違う形での挑戦、同じ"歌うたい"として、やりづらい気持ちも解るんだ」…最大限のサポートを試みた。何よりも"最高のステージ"を創りたかった。

公演まで一週間を切り、合同リハーサルの日々へ。混沌とする周囲との確認作業。あがた邸でのふたりでのリハ、生活のためのバイトにも通わなくてはならない。田口はベースだけではなく、ギターもかなりの曲数を担当する。自身の個人練習を行う時間が「圧倒的に足りない」。通勤途中の電車では、音源を聴くだけのイメージトレーニングで不安な気持を補う。睡眠時間は3時間を切っていた。
「確かに素晴らしい経験かもしれない。だけど本当に俺はできるのか?…」


雨脚と風が強まる中、”その時”がやって来た。
嵐の先に、幻の月が輝き始める。


(続く)




※久保田麻琴

「裸のラリーズ」「夕焼け楽団」「サンセッツ」を経て、90年より音楽プロデューサーへ転身。世界中を旅しながらヨーロッパや豪州、中南米、東南アジアの音を操り、数々のアルバムで類い希な手腕を発揮している。"音の錬金術師"と呼ばれるように、音楽関係者からも尊敬と憧れを一心に集める存在だ。

※鈴木慶一

1970年代より、ムーンライダーズ(Moonriders)の中心人物として、日本のロックシーンに影響を与え続ける大御所中の大御所。映画音楽でも北野武監督の『座頭市』(2003年公開)で第36回シッチェス・カタロニア国際映画祭(スペイン)で最優秀音楽賞を受賞している。あがた森魚との関わりは30年以上。



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by Mahiru1226 | 2007-10-31 18:17
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